教科書 › 第I部 半導体の理論
CHAPTER 09
スケーリング則とその終焉
1974年、ロバート・デナードらが重要な法則を示した。トランジスタの寸法を一律に小さくし、同時に電源電圧も同じ割合で下げれば、単位面積あたりの消費電力は変わらないまま、密度と速度だけが向上するというものだ。これをデナードスケーリング
という。
これは魔法のような話で、実際に30年ほど機能した。世代が進むたびに、トランジスタは増え、動作は速くなり、それでいてチップは熱くならなかった。ムーアの法則が経済的に成立し続けたのは、この物理的な裏付けがあったからである。
だが2005年前後に破綻した。原因は電圧を下げられなくなったことだ。しきい値電圧を下げすぎるとリーク電流が急増するため、電源電圧をそれ以上下げられない。電圧が下がらないまま密度だけ上がると、単位面積あたりの発熱が増える。
ここから業界の風景が変わった。周波数競争が止まり、マルチコア化が進み、そしてアクセラレータの時代が始まる。全部この1点が原因。
結果として生まれた概念がダークシリコン
である。チップ上に載せられるトランジスタの数は増え続けるが、熱の制約からそのすべてを同時に動かすことができない。つまり常に一部を消灯させておかなければならない。
ここで発想が転換する。どうせ全部は動かせないなら、汎用回路を敷き詰めるより、用途ごとに最適化した専用回路をいくつも載せておいて、必要なものだけ点灯させたほうが効率がいい。スマートフォンのSoCに動画デコーダ、ISP、DSP、NPUが個別に載っているのはこの理屈による。アクセラレータの隆盛は、流行ではなく物理的必然だったということになる。
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