EUVリソグラフィ — 13.5nmの光を作るという狂気
波長13.5nmの光は空気にもレンズにも吸収される。それでも半導体産業がこの光を選んだのはなぜか。スズプラズマ光源、レンズを1枚も使わない反射光学、そして「露光を4回重ねる」マルチパターニングとの損得勘定を、前提知識ゼロから解説する。
型紙とスプレーの限界
チップの回路は焼き付けで作られます。原版(マスク)に描かれた図形を、レンズで縮小してウェハ上の感光材(レジスト)に投影する。写真の引き伸ばしを逆向きにやる作業だと思ってください。
ここで直感に反することが起きます。マスクの図形をいくら細かく描いても、ある細さから先はウェハ上の像がぼやけて潰れてしまうのです。原因はレンズの精度ではなく、光が波であることにあります。型紙の上からスプレーを吹き付けると、穴の縁で塗料が回り込んで輪郭が甘くなる。光も同じで、狭い隙間を通ると回り込み(回折)が起き、隙間が波長に近づくほどそれが激しくなります。
この限界は1本の式にまとまっています。
は引ける線の細さ、 は使う光の波長、 はレンズが光をどれだけ広い角度から集められるかを表す「開き具合」です。 は照明の当て方やレジストの性能をまとめた係数で、1回の露光で作る限り0.25より下げられないことが分かっています。つまりこの式は「細い線を引きたければ、波長を短くするか、レンズを大きく開くかの二択だ」と言っています。
半導体産業は長いあいだ後者で粘りました。到達点がArF液浸です。波長193nmの光を使い、レンズとウェハの隙間を水で満たして光を曲がりやすくし、 を1.35まで引き上げました。式(1)に を入れると nm。線と隙間が36nmずつ、というのが1回の露光で描ける限界です。
そしてここで詰まりました。 は挟む液体の屈折率で頭打ち、 は物理的な下限。残る分子の も、193nmの次に控えていた157nmの光源が、その波長を透過するレンズ材料を用意できずに頓挫しました。波長を少しだけ短くする道が閉じたのです。
なぜ13.5nmという半端な数字なのか
そこで産業が選んだのは、193nmの隣ではなく14分の1の13.5nm、極端紫外線(EUV)でした。飛び方が異常です。なぜ50nmでも5nmでもなく13.5nmなのか。
答えは「短いほど良いから」ではありません。13.5nmは、独立した2つの制約がたまたま重なった、ほとんど唯一の窓だからです。
1つ目は鏡の都合です。この波長帯ではあらゆる物質の屈折率がほぼ1で、しかも強く吸収します。屈折で光を曲げる=レンズが原理的に作れません。使えるのは、薄膜を何十層も積んで各層からの反射を干渉で足し合わせる多層膜ミラーだけです。層の周期を波長の半分に合わせると反射が強め合う(ブラッグ反射)ので、周期はおよそ6.9nm。この寸法でモリブデンとシリコンを交互に積むと実用になる反射率が得られる — その組み合わせが成立する波長が13.5nm付近なのです。
2つ目は光源の都合です。スズ(Sn)を高温プラズマにすると、電子を何個も剥ぎ取られた多価イオンの遷移が密集し、13.5nm付近に強い発光の帯ができます。
「よく光る材料」と「よく反射する鏡」が同じ波長で同時に成立する。13.5nmはその交点であって、設計者が選んだ数字ではなく、自然が1か所だけ空けておいてくれた穴です。しかも使えるのは中心波長の±1%というごく狭い帯だけで、その外側の発光はすべて熱にしかなりません。
光源: 毎秒5万個のスズを撃ち続ける
では、その光をどう作るか。ここからが「狂気」の部分です。
EUV光源はレーザー生成プラズマ(LPP)方式で動きます。直径数十マイクロメートルのスズの液滴を、真空チャンバーの中へ毎秒5万個のペースで射出する。飛んでいる液滴1粒ごとに、まず弱いレーザー(プリパルス)を当てて平たく潰し、続けて波長10.6マイクロメートルの高出力CO₂レーザーを撃ち込んで、数十電子ボルト級のプラズマに変える。そこから出るEUV光を、お椀型の集光ミラー(コレクタ)で拾い集めて露光装置へ送り込みます。
厳しさは変換効率に出ます。投入したレーザーのうち使える帯域のEUVになるのは数パーセントで、残りは熱と帯域外の光と飛び散ったスズです。数十キロワット級のレーザーを入れ続けて、装置に渡されるEUVは数百ワット級にとどまります。
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