体系 › スケーリングと電力
·★ 会員·12分で読めます

チップレットの経済学 — 大きく作れないから分ける

チップを分けるのは速くなるからではなく、分けないと売れる値段で作れないから。レチクル限界と歩留まりの指数、良品1個あたりの原価、分割が損に転じる折り返し点、プロセスの混載、そしてUCIeという「縫い目の規格」までを算数で追う。

要点

  • チップレットは回路を小さなダイに分けて1パッケージに載せる技術で、配線は分けないほうが速く省電力だが、1枚では売れる値段で作れない。
  • 露光装置の1回の露光面積には上限があり、現行で約26 mm × 33 mm(858 mm²前後)、High-NA EUVでは約26 mm × 16.5 mmに縮む。
  • 原価は良品1個あたりで決まり、C_good = C_w / (N(A)Y(A))で、捨てたダイの費用は生き残ったダイが負担する。
  • 欠陥がランダムに落ちると良品率はY(A) = e^(-A D0)の指数関数になり、面積を2倍にすると良品率は2乗される。
  • ダイ同士をつなぐ縫い代は割る数とともに増えるため、損得は歩留まりの利益と縫い代の費用の天秤で、面積と欠陥密度が決める。
対象textタスクhardware

分けたほうが速い、わけではない

回路を複数の小さなダイに分けて1つのパッケージに載せる——チップレットは、いかにも性能のための技術に見えます。実際は逆です。配線は分けないほうが必ず速く、消費電力も少なくて済みます。同じ回路が1枚のダイに収まるなら、技術的にはそちらが常に上。それでも分けるのは、1枚に収めた製品が売れる値段で作れないからです。

だからチップレットの議論は、大半が物理ではなく算数になります。良品1個あたりいくらか。ウェハ1枚から製品が何個取れるか。設計にかけた固定費を何製品で割れるか。割ったあとにどう縫い直すか(インターポーザ、HBM、ハイブリッドボンディング)は先端パッケージングで扱ったので、ここではなぜ割ると得なのか、どこから損に転じるのかだけを見ます。

比喩: 一枚板のガラスと、切り分けた板

大きな板ガラスを作る工場を想像してください。材料にはときどき小さな気泡が混じり、入る位置はランダムで、完全には防げません。

チップレットの経済的な核心はこれで全部です。ウェハに落ちる欠陥が気泡、ダイの面積が板の大きさ。1枚の巨大なダイで作るのは「気泡1個で全部捨てる」商売で、割るというのは捨てる単位を小さくすることにほかなりません。

ガラスと違う点が1つあります。ガラスは切ったまま売れますが、チップは割ったあとに縫い直さないと動きません。縫い代——ダイ同士をつなぐ回路の面積、境界を越える電力、実装の手間——は、割る数が増えるほど積み上がります。つまりこの技術は最初から、歩留まりの利益と縫い代の費用を天秤にかける話です。天秤がどちらに傾くかは、面積と欠陥密度で決まります。

天井は動かない

そもそも、なぜ大きく作れないのか。露光装置が一度にウェハへ焼き付けられる面積には上限があり、現行のスキャナでおよそ 26 mm × 33 mm、面積にして 858 mm² 前後です。このレチクル限界を超える回路は、1回の露光で作れる1つの絵柄としては存在できません。

しかもこの天井は、上がるどころか下がる方向に動きます。次世代の High-NA EUV は光学系の都合で一度に焼ける範囲が従来の半分になり、視野はおよそ 26 mm × 16.5 mm です。微細化を進めるほど「1枚に収められる回路」の上限は小さくなる——微細化と分割は、競合ではなくセットで進みます(EUVリソグラフィ)。

そして実務では、レチクル限界より先に歩留まりが効いてきます。作れる大きさであっても、大きいほど良品率は指数で落ちる。まずはこの「指数」の手触りを掴んでください。

FIG 1指数の曲線は、入力が少し増えるだけで桁を変える。良品1個あたりの原価もこの形で伸びる。線形の目盛りに切り替えると差が潰れて見えるところまで含めて、「大きいチップだけが不釣り合いに高い」理由がここにある

良品1個あたり、いくらか

原価を語る単位は、ウェハ1枚の値段でもダイ1個の面積でもなく、良品1個あたりの値段です。これは2つの数で決まります。ウェハ1枚から何個切り出せるか(NN)と、そのうち何割が動くか(YY)。

Cgood=CwN(A) Y(A)C_{\text{good}} = \frac{C_w}{N(A)\,Y(A)}
(1)

CwC_w はウェハ1枚の値段、AA はダイ1個の面積。「ウェハ代を、実際に売れるチップの数で割ったもの」と読みます。つまり、ウェハ1枚を焼いて動いたのが半分だけなら、1個あたりの負担はウェハ代の2倍になるということ。捨てたダイの費用は消えるのではなく、生き残ったダイが肩代わりします。分割の損得は、この分母がどう動くかだけの話です。

そのうち YY は、欠陥がランダムに落ちると仮定すると指数関数になります。

Y(A)=e−AD0Y(A) = e^{-A D_0}
(2)

D0D_0 は単位面積あたりの欠陥密度。「面積を増やすと良品率は指数で落ちる」と読みます。つまり、面積を2倍にしても良品率は半分になるのではなく、もとの良品率を2乗した値まで落ちるということ。8割が2倍の面積で6割強に、その2倍で4割に——面積を足すたび、生き残る割合は引き算ではなく掛け算で削られていきます。ここが分割の動機のすべてです。

もう一方の は、単純な割り算より少し小さくなります。丸いウェハの縁に四角いダイが収まらないからです。…

この先にあるもの

§

ここから先は会員限定です

解説記事449本・教科書42章・学生モード48単元・論文精読6本が、月額¥490ですべて読み放題になります。新しい解説は1日あたり平均3本ほど増えます。いつでも解約でき、解約後も期間の終わりまで読めます。

会員の方はログインすると続きが表示されます

運営: TechAthletes · 編集方針 · 出典の付け方 · 訂正の記録

コメント

コメントにはログインが必要です