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半導体材料の上流 — ウェハ・フォトレジスト・特殊ガス

砂だったシリコンが「9が11個」の純度になり、1本の巨大な単結晶として引き上げられ、光で溶ける化学膜を塗られるまで。CZ法の偏析から化学増幅レジストの酸のにじみまでを前提知識ゼロで追い、なぜこの上流に日本企業が居座り続けているのかを構造から読み解く。

対象textタスクhardware

砂から始まる話

半導体の記事はたいてい「何ナノのプロセスか」から始まります。けれど工場の入口に運び込まれるのは、回路でもトランジスタでもありません。鏡のように磨かれた円盤、冷蔵便で届くボトル、ボンベに詰まった気体です。

料理に例えるなら、露光や成膜は調理法の話でした。この記事は食材の話です。どんな包丁さばきも素材が悪ければ料理になりませんが、半導体はその依存度が極端で、不純物が10億分の1(ppb)動くだけで数百工程先の歩留まりが変わります。

そして食材には厄介な性質があります。産地が異様に偏っていることです。世界中のどんな最先端ファブも、上流をたどると数社・数工場に行き着く。ここでは3本柱 — シリコンウェハ・フォトレジスト・特殊ガス — を砂から順に見ていきます。

「9が11個」という純度

シリコンは地殻に2番目に多い元素で、原料の珪石(石英の砂)は安い。それでもウェハが高いのは、純度にお金がかかるからです。

まず砂(SiO₂)を電気炉で炭素とともに還元し、純度98〜99%の金属級シリコンを作ります。ここから半導体級に持ち上げる標準手順がシーメンス法です。シリコンを塩化水素と反応させてトリクロロシラン(SiHCl₃)という液体に化けさせ、それを蒸留し、精製したガスを高温のシリコン棒の上で分解してシリコンだけを析出させる。

肝は蒸留です。固体のまま不純物を抜くのは難しいけれど、沸点の違う液体に化けさせれば、化学工業が100年やってきた蒸留の土俵に持ち込める。半導体産業が化学産業の子どもだと言われる所以で、こうしてできるポリシリコンの純度は「イレブンナイン」= 99.999999999% と表現されます。

重要なのは、精製が足し算ではなく掛け算で効くことです。1回通すたびに不純物が数分の1になる。段数に比例したコストを払うと、純度は桁で上がっていきます。

FIG 1この曲線を「不純物の減り方」として逆さに読んでほしい。精製の段数nに対して残る不純物は指数で落ちる(=純度の9が線形に増える)のに、コストは段数に比例した足し算でしか増えない。対数目盛りに切り替えると、線形に見えた差が実は桁の差だと分かります

CZ法 — 溶けた金属から結晶を引き上げる

純度が足りても、まだウェハにはなりません。次に要るのは単結晶です。原子が端から端まで乱れなく並んだ1個の巨大な結晶。多結晶では結晶粒の境界が電子を散乱させ、トランジスタとして使い物になりません。

これを作るのがチョクラルスキー法(CZ法)です。1916年にヤン・チョクラルスキが金属で見つけた方法を、1950年前後にベル研究所がシリコンへ適用しました。手順は拍子抜けするほど直感的です。石英るつぼでポリシリコンを1414℃(シリコンの融点)超まで加熱して融かし、向きの揃った小さな種結晶を表面にちょんと触れさせ、回しながらゆっくり引き上げる。融液は種に触れた瞬間、その原子配列を引き継いで固まります。ゆっくり引けば太く、速く引けば細い。飴を引き伸ばすのと同じ感覚です。

ここに教科書必出の小技があります。引き始めに一度、直径3mmほどの細い首(ネック)を作るのです。種結晶には必ず転位(原子配列のずれ)が入っていますが、転位は結晶の側面へ逃げる性質があるため、断面を極端に細くすると全部が外へ抜けてしまう。1950年代末にウィリアム・ダッシュが見つけたこの「ダッシュ・ネッキング」で、転位ゼロの結晶が作れるようになりました。数百キロの塊が数ミリの首でぶら下がる、力学的にはかなり無茶な構造です。

そして引き上げが進むにつれ、この結晶には場所ごとの個性が刻まれていきます。ここから先が、ロットのばらつきの正体です。

頭と尻で濃度が違う

CZ法には避けられない癖があります。偏析(segregation)です。融液に不純物やドーパント(電気伝導を作るために意図的に入れる元素)が混ざっているとき、固まる部分と融けたまま残る部分では濃度が一致しません。この比が偏析係数 kk です。

k=CsClk = \frac{C_s}{C_l}
(1)

CsC_s は固まった側の濃度、ClC_l は融液側の濃度です。この式が言っているのは要するに、固まる瞬間に、融液にあった不純物のうち kk の割合だけが固体側へ連れて行かれるということ。ホウ素は k0.8k \approx 0.8、リンは k0.35k \approx 0.35k<1k<1 は、固まる側が不純物を置いてきぼりにする=残った融液がどんどん濃くなる、という意味になります。

引き上げ切ったときの濃度分布は、この積み重ねとして書けます。

Cs(g)=kC0(1g)k1C_s(g) = k\,C_0\,(1-g)^{\,k-1}
(2)

gg は「インゴットのうちすでに固まった割合」(0が引き始め、1が引き終わり)、C0C_0 は最初に融液へ入れた濃度です。日常語に言い換えると、引き始めは薄く、引き終わりに近づくほど濃い。しかも最後は急に濃くなる、と言っているだけの式です。(1g)(1-g) は「まだ融けたまま残っている割合」なので、残りが減るほど、置いてきぼりにされた不純物が狭くなった融液に押し込められて濃くなる。鍋を煮詰めると味が濃くなるのと同じ理屈です。

数字を入れると効き方が見えます。リン(k0.35k \approx 0.35)の場合、引き始めの濃度を1とすると、半分固まった時点でおよそ1.6倍、9割固まった時点ではおよそ4.5倍です。前半はゆるやかなのに、最後の1割で跳ね上がる。指数の肩が k1=0.65k-1 = -0.65 という負の値なので、gg が1に近づくと発散する形をしているからです。

これは現場では抵抗率がインゴットの頭と尻で違うという形で現れます。だからウェハ仕様には抵抗率の範囲が書かれ、外れた頭と尻は捨てるか別グレードになる。「同じロットなのに特性が違う」の何割かはここが出所です。

るつぼ由来の癖もあります。石英るつぼ(SiO₂)が融液に少しずつ溶けるため、CZシリコンには酸素が必ず入ります。ただしこれは歓迎される面もあり、熱処理で酸素が作る微細な析出物が金属不純物を捕まえるゴミ箱(ゲッタリング)として働き、ウェハを機械的にも強くします。酸素を嫌う高耐圧パワーデバイス向けには、るつぼを使わないフロートゾーン法(FZ法)が使われます。

引き上がったインゴットは直径300mm・長さ2m級の円柱です。外周を削って径を揃え、ワイヤソーで薄切りにし(ワイヤの太さ分が削り粉として消えるのがカーフロス)、ラップ→エッチング→CMPで鏡面にする。高性能ロジック向けには、さらにエピタキシャル層を載せます。求められるのは純度だけでなく、平坦度(露光機の焦点深度は数十nmしかない)、数十nm以上のパーティクル数、エッジ形状。この「材料そのものの歩留まり」を安定して出せることが参入障壁です([歩留まりとDFM](/ja/a/yield-and-dfm/))。

この先にあるもの

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