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DPOとその後 — RLHFを単純化する系譜

報酬モデルを別に建てずに選好から直接学ぶDPOの導出を、KL制約付き最大化の閉形式解から一段ずつ追う。さらにDPOの過学習を数式で説明したIPO、ペアを要求しないKTO、価値モデルを捨ててオンラインへ戻ったGRPOまでを「何を消したか」で整理し、手元のデータの形から選ぶ基準をまとめる。

要点

  • RLHFは比較データで報酬モデルを育て、その高得点を目指して強化学習で言語モデルを回す3段構えである。
  • RLHFでは学習中のGPUに方策・参照モデル・報酬モデル・価値モデルの4つのモデルが同時に載る。
  • 2023年のDPOの主張は、報酬モデルは方策の中に書き込まれており別のネットワークは不要という点である。
  • KL罰金つきの報酬最大化には閉じた式の厳密解があり、報酬は方策と参照モデルの対数の比で書ける。
  • Bradley-Terryモデルでは報酬の差だけが式に入るため、計算できないlog Z(x)の項は引き算で消え、参照モデルは残る。
対象textタスクtraining

Direct Preference Optimization: Your Language Model is Secretly a Reward Model

一次資料 — この記事の根拠

論文の発表 2023-05-29→この解説の公開 2026-08-273年3か月後

Direct Preference Optimization: Your Language Model is Secretly a Reward ModelRafael Rafailov, Archit Sharma, Eric Mitchell ほか · 2023-05-29 · v3arXiv:2305.18290論文ページ·PDF
A General Theoretical Paradigm to Understand Learning from Human PreferencesarXiv:2310.12036論文ページ·PDF
KTO: Model Alignment as Prospect Theoretic OptimizationarXiv:2402.01306論文ページ·PDF
DeepSeekMath: Pushing the Limits of Mathematical Reasoning in Open Language ModelsarXiv:2402.03300論文ページ·PDF
ORPO: Monolithic Preference Optimization without Reference ModelarXiv:2403.07691論文ページ·PDF
原文の要旨(Abstract)を読む

While large-scale unsupervised language models (LMs) learn broad world knowledge and some reasoning skills, achieving precise control of their behavior is difficult due to the completely unsupervised nature of their training. Existing methods for gaining such steerability collect human labels of the relative quality of model generations and fine-tune the unsupervised LM to align with these preferences, often with reinforcement learning from human feedback (RLHF). However, RLHF is a complex and often unstable procedure, first fitting a reward model that reflects the human preferences, and then fine-tuning the large unsupervised LM using reinforcement learning to maximize this estimated reward without drifting too far from the original model. In this paper we introduce a new parameterization of the reward model in RLHF that enables extraction of the corresponding optimal policy in closed form, allowing us to solve the standard RLHF problem with only a simple classification loss. The resulting algorithm, which we call Direct Preference Optimization (DPO), is stable, performant, and computationally lightweight, eliminating the need for sampling from the LM during fine-tuning or performing significant hyperparameter tuning. Our experiments show that DPO can fine-tune LMs to align with human preferences as well as or better than existing methods. Notably, fine-tuning with DPO exceeds PPO-based RLHF in ability to control sentiment of generations, and matches or improves response quality in summarization and single-turn dialogue while being substantially simpler to implement and train.


報酬モデルという「回り道」

料理の腕を上げたいとします。素直な方法は、食べた人に「AとB、どっちが美味しい?」と聞いて、答えを次の一皿に反映させることです。

ところがRLHF(人間のフィードバックによる強化学習)は、そこにワンクッション置きます。まず「AとBならA」という比較データを大量に集め、それで採点員を育てる。採点員とは、料理を入れると点数を返すニューラルネット、つまり報酬モデルです。そのうえで、採点員が高い点をつける料理を作るように、料理人(言語モデル)を強化学習で回す。この3段構えがInstruction Tuning と RLHFで扱ったInstructGPT型のパイプラインです。

回り道をする理由ははっきりしています。強化学習は「試して、点をもらって、直す」を何万回も繰り返すので、そのたびに人間に聞くわけにはいかない。だから人間の代役が要る。

代償も同じくらいはっきりしています。学習中のGPUには4つのモデルが同時に載ります。学習中の方策、固定した参照モデル、報酬モデル、そしてPPOが使う価値モデル。おまけに強化学習は不安定です。「人間の好みを反映したい」だけなのに、装置が大きすぎるのです。

2023年のDPO(Direct Preference Optimization)は、ここに一撃を入れました。採点員はいらない。 正確には、採点員は方策そのものの中にすでに書き込まれているので、別のネットワークとして建てる必要がない、という主張です。

直感: 採点表は方策の中にすでにある

核心は一行です。ある採点基準(報酬関数)を決めれば、それに最適化された料理人が一意に決まる。逆も成り立つ。 料理人の振る舞いを見れば、どんな採点基準に最適化されたかが逆算できる。だとしたら採点基準を先に学ぶ必要はなく、比較データを直接料理人に当てればいい。

但し書きが1つ。逆算には「参照点」が要ります。料理人が塩を強めに使ったとして、それが「塩が高評価だから」なのか「もともとの癖」なのかは単独では分かりません。訓練前の姿と比べて初めて、訓練に押された差分が読み取れます。だからDPOには最後まで参照モデルが登場します。消えるのは報酬モデルと価値モデルであって、参照モデルではありません。

仕組み: 報酬モデルが消える3行の変形

出発点は、RLHFが解こうとしている問題そのものです。

max⁡πθ  Ex∼D,  y∼πθ(⋅∣x)[r(x,y)]  −  β DKL(πθ(⋅∣x) ∥ πref(⋅∣x))\max_{\pi_\theta}\; \mathbb{E}_{x\sim\mathcal{D},\; y\sim\pi_\theta(\cdot\mid x)}\big[r(x,y)\big] \;-\; \beta\, D_{\mathrm{KL}}\big(\pi_\theta(\cdot\mid x)\,\|\,\pi_{\mathrm{ref}}(\cdot\mid x)\big)
(1)

xx は入力(プロンプト)、yy は出力(応答)、πθ\pi_\theta が学習中の方策、πref\pi_{\mathrm{ref}} が訓練前に固定した参照モデル、r(x,y)r(x,y) が報酬、DKLD_{\mathrm{KL}} は2つの分布のズレを測るKL情報量です。つまりこの式は「もらえる点数の平均をできるだけ高くしたい。ただし訓練前の自分から離れた分だけ、β\beta 倍の罰金を差し引かれる」という一文を、そのまま記号に置き換えたものです。β\beta は「どれだけ冒険していいか」のつまみです。

ここが分かれ道でした。従来はこれをPPOで近似的に解いていた。ところがこの形の問題には、閉じた式の厳密解があります。

π∗(y∣x)  =  1Z(x) πref(y∣x) exp⁡ ⁣(1β r(x,y))\pi^{*}(y\mid x) \;=\; \frac{1}{Z(x)}\,\pi_{\mathrm{ref}}(y\mid x)\,\exp\!\left(\frac{1}{\beta}\,r(x,y)\right)
(2)

つまり最適な方策は「元のモデルの出やすさに、報酬の指数関数を掛け、合計が1になるよう割っただけ」ということです。Z(x)Z(x) はその割り算に使う正規化定数(分配関数)で、xx ごとに1つ決まります。報酬が高い応答は指数で持ち上げられますが、元のモデルがほぼ出さない応答は πref\pi_{\mathrm{ref}} が小さいので急には出てきません。KL罰金の正体はこれです。

次に、この式を rr について解き直します。対数を取って移項するだけです。

r(x,y)  =  βlog⁡π∗(y∣x)πref(y∣x)  +  βlog⁡Z(x)r(x,y) \;=\; \beta\log\frac{\pi^{*}(y\mid x)}{\pi_{\mathrm{ref}}(y\mid x)} \;+\; \beta\log Z(x)
(3)

これが決定的な一行です。 報酬が、方策と参照モデルの「対数の比」で書けてしまった。つまりある応答の報酬とは「訓練後のモデルがそれを言う確率は、訓練前と比べて何倍になったか」を対数で測り、β\beta 倍したもの、というのがこの式の中身です(log⁡Z(x)\log Z(x) は応答によらず全員に同じだけ乗る下駄)。報酬関数を別に持つ必要はなく、方策そのものが報酬関数を兼ねている。原論文の副題「あなたの言語モデルは、実は報酬モデルである」はこの式を指しています。

残る問題は log⁡Z(x)\log Z(x) で、全応答にわたる和なので計算できません。ここで選好データの形が効きます。人間が答えているのは絶対的な点数ではなく「AとBならA」という比較でした。比較を確率に変える古典的なモデルがBradley-Terryモデルです。

p(yw≻yl∣x)  =  σ(r(x,yw)−r(x,yl))p(y_w \succ y_l \mid x) \;=\; \sigma\big(r(x,y_w) - r(x,y_l)\big)
(4)

ywy_w は人間が選んだ方、yly_l は選ばれなかった方、σ\sigma はシグモイド関数です。つまり「2つの応答の点差をシグモイドに通した値が、人間がそちらを選ぶ確率になる」— 点差が大きいほど勝つ確率が1に近づく、スポーツのレーティングと同じ発想です。

FIG 1横軸を「勝った応答と負けた応答の報酬の差」、縦軸を「人間がその通りに選ぶ確率」と読み替えると、これがBradley-Terryモデルそのものです。差が0なら五分五分、数目盛り開くだけで0か1に張り付き、そこから先はどれだけ差を広げても曲線がほとんど動かない — この「張り付いた先」が後半の主役になります

注目すべきは、式(4)に入るのが報酬の差だという点です。式(3)を代入すると βlog⁡Z(x)\beta\log Z(x) は両側に同じ値で現れるので、引き算できれいに消えます。計算できなかった項が、問題の立て方のおかげで消滅する。

代入して整理すると、DPOの損失関数が出てきます。…

この先にあるもの

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参考文献

  1. Rafael Rafailov, Archit Sharma, Eric Mitchell, Stefano Ermon et al.. (2023-05-29) Direct Preference Optimization: Your Language Model is Secretly a Reward Model. arXiv:2305.18290論文ページ·PDF
  2. A General Theoretical Paradigm to Understand Learning from Human Preferences. arXiv:2310.12036論文ページ·PDF
  3. KTO: Model Alignment as Prospect Theoretic Optimization. arXiv:2402.01306論文ページ·PDF
  4. DeepSeekMath: Pushing the Limits of Mathematical Reasoning in Open Language Models. arXiv:2402.03300論文ページ·PDF
  5. ORPO: Monolithic Preference Optimization without Reference Model. arXiv:2403.07691論文ページ·PDF

本記事は上記論文の本文にもとづいて執筆しています。数値・主張は原典を優先してください。

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