スケーリング則を1から解説 — なぜ大きくすると賢くなるのか
「モデルを大きくすれば賢くなる」を数式にしたのがスケーリング則。Kaplan則からChinchilla論文(Hoffmann et al., 2022)への転換を、400本超の実験・3つの推定法・70B対280Bの直接対決まで、論文本文だけを根拠に1から解説する。
Training Compute-Optimal Large Language Models
一次資料 — この記事の根拠
論文の発表 2022-03-29→この解説の公開 2026-08-134年5か月後
Training Compute-Optimal Large Language ModelsJordan Hoffmann, Sebastian Borgeaud, Arthur Mensch ほか · 2022-03-29 · v1arXiv:2203.15556論文ページ·PDF原文の要旨(Abstract)を読む
We investigate the optimal model size and number of tokens for training a transformer language model under a given compute budget. We find that current large language models are significantly undertrained, a consequence of the recent focus on scaling language models whilst keeping the amount of training data constant. By training over 400 language models ranging from 70 million to over 16 billion parameters on 5 to 500 billion tokens, we find that for compute-optimal training, the model size and the number of training tokens should be scaled equally: for every doubling of model size the number of training tokens should also be doubled. We test this hypothesis by training a predicted compute-optimal model, Chinchilla, that uses the same compute budget as Gopher but with 70B parameters and 4$\times$ more more data. Chinchilla uniformly and significantly outperforms Gopher (280B), GPT-3 (175B), Jurassic-1 (178B), and Megatron-Turing NLG (530B) on a large range of downstream evaluation tasks. This also means that Chinchilla uses substantially less compute for fine-tuning and inference, greatly facilitating downstream usage. As a highlight, Chinchilla reaches a state-of-the-art average accuracy of 67.5% on the MMLU benchmark, greater than a 7% improvement over Gopher.
予算は先に決まっている。さて、どう配分するか
受験までの勉強時間が1000時間と決まっているとします。分厚い参考書を1冊だけ完璧にするか、薄い参考書で大量の過去問を回すか — 総時間が同じでも、配分次第で結果は変わります。
大規模言語モデル(LLM)の学習もこれと同じ構造です。GPUを何台、何日使えるかが決まれば、使える総計算量(FLOPs:浮動小数点演算の回数)は事前にほぼ決まります。その予算を「モデルの大きさ」に使うか「読ませるデータの量」に使うかは、トレードオフです。大きいモデルはデータ1件あたりの計算が重いので、同じ予算なら読める量が減ります。しかも巨大モデルの学習は事実上1回勝負。走らせる前に配分を決めなければなりません(§1)。
この配分問題に正面から答えたのが、DeepMindの論文 "Training Compute-Optimal Large Language Models"(Hoffmann et al., 2022)、通称 Chinchilla論文です。この記事はこの論文だけを根拠に、スケーリング則の考え方を前提知識ゼロから解説します。
「大きくすれば賢くなる」— Kaplan則の時代
出発点は2年前に遡ります。Kaplan et al.(2020)は、言語モデルのパラメータ数と性能(損失)の間にべき乗則(power law)が成り立つことを示しました。桁で大きくすれば、予測可能なペースで損失が下がる — この発見以降、業界は競うようにモデルを巨大化させます(§1, §2)。
Kaplanらの分析はさらに踏み込み、「計算予算が10倍になったら、モデルサイズを5.5倍、学習トークン数は1.8倍にせよ」という配分まで示しました(§1)。つまり予算の増分はほぼ全部モデルの大型化に回せ、という処方箋です。実際、論文のTable 1にある通り、GPT-3(175B)・Jurassic-1(178B)・Gopher(280B)・MT-NLG(530B)と、モデルは3年で3倍以上に巨大化した一方、学習トークン数はどれも約3000億でほぼ据え置きでした。
Chinchilla論文の主張は一言で言えば「この配分は間違っていた。いまの大規模モデルは軒並み"学習不足"だ」です(Abstract)。
配分問題を1本の式にする
論文はまず、問いを数式として定義します。最終的な事前学習の損失 を、パラメータ数 と学習トークン数 の関数 と見なし、計算予算 の制約の下で最小化します(§1)。
記号を1つずつ読み解くと: はモデルのパラメータ数(脳の大きさ)、 は学習に使うトークン数(読ませる文章の量)、 は使える総計算量です。式全体は「計算量がちょうど になる の組み合わせの中で、損失 が最も小さくなる組を探せ」と言っているだけです。 と が、その予算での最適なモデルサイズと最適なデータ量になります。
ここで便利な近似が、学習FLOPsの見積もり式です(§3.3)。
つまり総計算量は「パラメータ数×トークン数×6」でほぼ決まる、ということです(係数6の内訳は順伝播で2、逆伝播でその2倍。付録Fで丁寧に検算されており、正確な計算との差は数%以内でした)。この式のおかげで、予算 を固定すると と は反比例の関係になり、「配分」の意味がはっきりします。
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