相互情報量 — 「知っている」を測る
片方を知ると、もう片方の迷いがどれだけ減るか。それを1つの数字にしたのが相互情報量です。エントロピーの引き算という定義から、条件付き相互情報量・データ処理不等式・推定の難しさを経て、対照学習のInfoNCEがなぜ「相互情報量の下限」と呼ばれるのかまでをつなげます。
Representation Learning with Contrastive Predictive Coding
一次資料 — この記事の根拠
この解説の公開 2026-08-25
Representation Learning with Contrastive Predictive CodingarXiv:1807.03748論文ページ·PDFMINE: Mutual Information Neural EstimationarXiv:1801.04062論文ページ·PDF
On Variational Bounds of Mutual InformationarXiv:1905.06922論文ページ·PDF
On Mutual Information Maximization for Representation LearningarXiv:1907.13625論文ページ·PDF
「知っていると、どれだけ得か」を数字にする
朝、傘を持つか迷っている。そこで「今朝は気圧がぐっと下がってる」と教えられたとします。この一言で、「今日は雨か」という見通しはどれだけはっきりしたでしょうか。
相互情報量(mutual information, MI)は、この「はっきりした分」を数字にした量です。片方を知ると、もう片方についての迷いがどれだけ減るか。減り幅が大きいほど、2つは強く関係している。それだけの話です。
似た役目に相関係数がありますが、あれが測れるのは「直線的に一緒に増えるか」だけです。 で が から を動くとき、相関係数はほぼ0になります。 が正でも負でも は同じように大きくなり、直線としては噛み合わないからです。それでも を知れば は完全に決まる。相互情報量はこれを「関係は最大限に強い」と正しく答えます。関係の形を問わず、あらゆる依存を拾うのが強みです。
この記事は情報理論とAIの隣に置かれていますが、前提知識は仮定せずに進めます。
比喩: 「20の質問」で、質問1つの値打ちを測る
相手が思い浮かべた単語を、はい/いいえの質問だけで当てるゲーム。候補が1024語なら、あなたの迷いは質問10回分です( だから)。この「迷いの大きさ」がエントロピーで、単位はビットです。
ここで「それは生き物ですか?」と聞き、候補が256語まで絞れたとします。迷いは10ビットから8ビットへ。この質問には2ビットの値打ちがあったことになります。
相互情報量はまさにこの値打ちです。ただし運良く一発で当たった1回ではなく、答えの出方すべてを確率で重みづけた平均を取ります。「はい」でしか絞れない質問は、「はい」が滅多に返ってこないなら平均するとほとんど値打ちがない。逆に、どちらの答えでも半々に割れる質問は毎回きっちり1ビット稼ぎます。良い質問とは、答えが予測できない質問だというのが、この平均の言っていることです。
仕組み: 相互情報量は「迷いの引き算」
言葉にすれば、相互情報量はただの引き算です。何も知らないときの への迷いから、 を教わった後に残る への迷いを引く。差なので必ず0以上になります。教わって平均的に迷いが増えることはありません。そして差が0なら、 は について何も語っていない。これが「独立」の情報理論版です。
順に式にしていきます。まず、迷いの大きさ=エントロピー。 は が値 を取る確率です。
各結果の起こりにくさ を、その結果が起こる確率で平均したもの、という意味です。ありふれた結果ばかりなら小さく、どれが来るか見当もつかないなら大きくなります。対数の底を2にすればビット、自然対数にすればナット(nat)という単位になります。
つまり は「 の出方が平均してどれくらい当てにくいか」と声に出して読める量です。 は起こりうる値を全部見て回ること、頭のマイナスは「確率が小さい結果ほど驚きが大きい」と向きを揃えるための符号にすぎません。
次に、 を知った後に残る迷い=条件付きエントロピーです。
「 が だと分かった世界での の迷い」を、それぞれの が起きる確率で平均したものです。 を知るほど が絞れるなら、この値は小さくなります。
つまり縦棒 は「〜を教わった後で」と読み、 は「 を教わってもなお残っている、 への迷い」ということです。
相互情報量は、この2つの差として定義されます。
つまり「最初に抱えていた迷い」から「教わった後に残った迷い」を引いた、その差し引き分が だ、というだけの式です。
等号が2つ並んでいるのは、どちらから見ても同じ値になるという主張です。「 が について教えてくれる量」と「 が について教えてくれる量」は常に等しい。直感には反しますが定義から従う性質で、だから mutual(相互)情報量と呼ばれます。
分布が尖っていれば迷いは小さく、平らなら大きい。この対応を手で動かして確かめておくと、以降がずっと楽になります。
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