H.264からAV1へ — コーデック世代交代の実際
20年使われ続けるH.264と、ロイヤリティフリーを掲げて登場したAV1。符号化効率・計算量・ライセンスという3つの軸で世代交代の実際を解き、どちらをいつ選ぶかの判断基準まで1から解説する。
動画は「そのままでは送れない」
圧縮していない動画の大きさを想像してみます。フルHD(1920×1080画素)、1画素3バイト、毎秒30枚。掛け算すると1秒あたり約190メガバイト、2時間の映画なら1テラバイトを超えます。光回線でも生では流せません。私たちが日常的に動画を見られるのは、これを数百分の1に縮める圧縮技術=ビデオコーデックがあるからです。
コーデックは「言語」に似ています。送り手(エンコーダ)と受け手(デコーダ)が同じ文法を共有して初めて通じる。だから一度普及した言語はなかなか入れ替わりません——世界中のスマホやテレビに「読める文法」が焼き込まれているからです。世代交代とは、技術の優劣だけでなく、この巨大な互換性の網をひっくり返す作業です。
系譜: H.264からAV1までの20年
- H.264/AVC(2003年): ITU-TとMPEGが共同策定。BD、地デジ、YouTube、ビデオ会議まで浸透し、20年以上たった今も「どこでも再生できる」最大公約数です。
- H.265/HEVC(2013年): H.264の後継。「同じ画質で約半分のビットレート」を目標に設計されましたが、後述するライセンス問題で普及が鈍りました。
- VP9(2013年): Googleがロイヤリティフリーで公開した対抗馬。YouTubeが大規模採用。
- AV1(2018年): Amazon・Google・Netflix・Microsoft・Mozilla・Cisco・Intelらが設立した Alliance for Open Media(AOMedia) が策定した、ロイヤリティフリーのオープン規格。VP9の後継であり、事実上「HEVCのライセンス混乱への業界の回答」です。
各世代はおおむね「同じ画質で前世代より数割少ないビットレート」を狙って設計されています。配信事業者にとってビットレート削減はそのまま転送コストの削減なので、この数割に世代交代を賭ける価値が生まれます。
どの世代も骨格は同じ
意外かもしれませんが、H.264もAV1も基本構造は同一です。動画圧縮の基礎で扱った4段構えです。
- 予測: 画面内の近くの画素(イントラ予測)や前後のフレーム(インター予測・動き補償)から「たぶんこうなる」を作り、実際との差分だけを残す
- 変換: 差分をDCT系の変換で周波数成分に分解する
- 量子化: 人間の目に効きにくい成分を粗く丸めて情報を捨てる(ここが非可逆)
- エントロピー符号化: 出やすい値に短い符号を割り当てて詰める
世代交代とは、この骨格の各段の道具を増やし、選択肢を細かくすることです。革命ではなく、改良の積み重ねです。
判断基準は1本の式に集約される
道具が増えると「どの道具を使うか」を選ぶ基準が要ります。全コーデック共通の基準がレート歪み最適化(RDO)です。
この式が言っているのは要するに、「画質の悪さ と、使うビット数 を、天秤 で足し合わせたコスト が最小になる選択をせよ」ということ。(Distortion=歪み)は元画像との誤差、(Rate)はその選択に必要なビット数、(ラムダ)は「1ビットを画質どれだけと交換するか」の相場です。エンコーダはブロックの分割方法から予測モードまで、あらゆる候補についてこの を見積もり、最小のものを採用します。
量子化がどう画質とビット数を交換するかは、静止画で体感するのが早道です。
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