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体系論文解説
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論文解説: Apodex 1.1 — 「完了した仕事」を単位にエージェントをスケールさせる

モデルを大きくするのでも推論時間を伸ばすのでもなく、「環境」と「協調」の2面をスケールさせる——Apodexチームの技術報告を、タスク契約の式からAgentOSの納品ゲート、数字と限界まで1から解説する。

対象textタスクarchitecture

Apodex 1.1: Scaling Agentic Intelligence for Complex Work

一次資料 — この記事の根拠

論文の発表 2026-08-24この解説の公開 2026-08-27同月

Apodex 1.1: Scaling Agentic Intelligence for Complex WorkB. An, B. Li, B. Wang ほか · 2026-08-24 · v2arXiv:2608.23283論文ページ·PDF
原文の要旨(Abstract)を読む

General-purpose language models can reason and synthesize knowledge, but complex work also requires sustained interaction with files, information sources, and executable code, together with state maintenance, failure recovery, and verifiable delivery. We call this \emph{working capability}: sustained, verifiable progress toward a real-world objective. Apodex 1.1 develops this capability along two complementary dimensions. \emph{Environment Scaling} expands the diversity and verifiability of executable file, search, and code environments, while \emph{Agentic Coordination Scaling} trains agents to decompose long-horizon tasks, delegate parallel work, integrate asynchronous results, and replan. A shared execution harness and AgentOS maintain task state and provenance across tools and agents, and training turns environment trajectories and coordination traces into reliable behavior. Across complex professional work, finance, scientific research, mathematics, coding, and search, Apodex 1.1 reaches the leading performance band despite using a substantially smaller model than many frontier systems. The 35B-parameter Apodex 1.1 Mini further retains strong working capability in a locally deployable form. These results ground agentic intelligence in useful, verifiable work completed over time and advance our goal of building a \emph{Heavy-Duty Solver} for ambitious, long-running tasks.


「答えを言える」と「仕事を終わらせる」は別物

難しいクイズに即答できる人と、三日がかりの案件を最後まで納品できる人は同じとは限りません。後者に要るのは、変わる要件に付き合い、失敗をやり直し、他人が点検できる形で成果物を揃える力です。

Apodex 1.1 の技術報告(arXiv:2608.23283)はこの差から出発します。汎用モデルは知識も推論も急速に伸びたのに、多くの仕事は「正しい答えを言えるとき」ですら難しいまま。証拠を探して解釈し、形式のバラバラなファイルを扱い、コードを実行して直し、失敗しても有効な進捗を捨てずに回復し、他人が継続できる成果物を届ける——という長い過程があるからです(§1)。論文はこれを working capability(作業遂行能力)=「現実世界の目的に向けた持続的で検証可能な前進」と定義し、能力の単位は1回の応答ではなく完了した仕事だと宣言します(§2.1)。伸ばす軸は環境スケーリング協調スケーリングの2つです。

仕事を「契約」として書き下す

論文は全体で1つのタスク契約を使います(§2.1)。

E=(W,W0,q,A,T,Ω,B,D,VD)\mathcal{E}=(\mathcal{W},W_{0},q,\mathcal{A},\mathcal{T},\Omega,\mathbf{B},D,V_{D})
(1)

順に、ワークスペース状態の空間、その初期状態、目的、取れる行動、状態遷移、観測インタフェース、資源予算(ターン数・ツール呼び出し・トークン・実時間・同時実行数)、納品契約 DD、その検証器 VDV_{D} です。要するに「机の上の状態、やりたいこと、できる操作、操作すると何が起きて何が見えるか、使ってよい資源、何を納めれば合格か、誰が判定するか」を全部書いた仕様書です。

合否は SD=VD(W0,WH,τH)S_{D}=V_{D}(W_{0},W_{H},\tau_{H})、初期状態・最終状態・実行トレースの3つで決まります(式5)。論文は「自然言語の回答は最終ワークスペース内の成果物の1つでありうるが、それ自体が成功を定義しない」と明言します。文章のもっともらしさではなく、状態と経路が納品契約を満たしたかで測る立場です。

1つ目の軸: 環境スケーリング

これは「ツールを増やす」でも「プロンプトを増やす」でもなく、式(1)の (W0,q)(W_0,q)A\mathcal{A}(T,Ω)(\mathcal{T},\Omega)B\mathbf{B}(D,VD)(D,V_D)分布そのものを広げることだと定義されます(§2.2)。対象は3家族。ファイル世界は「権威と変換」で、必要な事実は入れ子のディレクトリ・過去バージョン・異種フォーマットに散らばります。網羅は職業を軸に広げられ、登録簿は33領域・318職種・1,208の成果物クラスタに及ぶと報告されています(§3.1.1)。難しさがファイル数と独立だと言い切っているのが重要で、効くのは業務ロジック連鎖の長さと、納品契約のうち文脈から推論するしかない割合です。検索世界は「発見と証拠の整合」で、求める正解物は最終回答より豊かに、関連ソース集合・主張と証拠の対応・矛盾時の明示的な不確実性まで含みます。コード世界は「実行可能な変換と検証」。実PRから収穫した世界は fail-to-pass / pass-to-pass テストで検証しますが、合成世界には外部の正解がない。そこで「タスクを完了せずに報酬を取れるか」を攻撃的に試し、サンドボックスで成功した攻撃だけを検証器の欠陥とみなす手続きを置き、採点は solver から隔離されます。

設計思想は §2.2 の一文に凝縮されています。「多様性はあるが忠実度がなければ、実ツールでは失敗する振る舞いを教える。忠実度はあるが網羅が足りなければ、少数のワークフローに過適合する。検証のない相互作用は、完了した仕事ではなく尤もらしい活動に報酬を与える」。

FIG 1「忠実だが狭い環境」で学ばせると何が起きるかの直感。訓練誤差(作り込んだ少数ワークフローの成績)は下がり続けるのに、テスト誤差(現場の別ワークフロー)は途中から離れていく。論文が「少数のワークフローへの過適合」と呼ぶのはこの乖離です

難しさの目盛り: 取得圧力

取得が支配的な世界の難易度座標が定義されています(§3.1.2)。

ρacq=Ncand+NhopBtool\rho_{\mathrm{acq}}=\frac{N_{\mathrm{cand}}+N_{\mathrm{hop}}}{B_{\mathrm{tool}}}
(2)

NcandN_{\mathrm{cand}} は「高コストな精査が要る候補の数」、NhopN_{\mathrm{hop}} は「結論を支える証拠の乗り換え回数」、BtoolB_{\mathrm{tool}} は「ツール呼び出し予算」。つまり分子が調べるべき量、分母が調べられる量なので、予算に対する調査量の逼迫度です。裏を返せば、ファイルやページをいくら増やしても権威ある経路が自明なままなら難しくならない。論文自身が「普遍的な難易度尺度ではなく一次近似の座標」と断っています。

FIG 2クエリをドラッグすると上位5件の顔ぶれが入れ替わります。距離の測り方を変えるだけで「もっともらしいが権威ではない候補」が上位に割り込むのが見えるはずです。論文の N_cand(高コストな精査を要する候補の数)が増えるとは、この割り込みが増えるということです

2つ目の軸: 協調そのものをスケールさせる

長い仕事は計算量の問題であると同時に分業の問題です(§2.3)。論文はこれを推論時ラッパーの性質ではなく学習軌跡に表現できる方策の振る舞いと位置づけ、重要な変数はエージェント数でもサンプル数でもなく「目的が変化する中で協調できる有用な仕事の量」だとします。実行時に担う Agent Team は 1.1 で永続的なタスクボードの上に外部化され、4つの能力が足されました(§3.2)。

4つのうち実務的に一番効くのが非対称検証(§3.2.3)です。同等能力の検証者に「もう一度全部解いて」と頼むと、同じくらい制約のない第2の誤りの連鎖が生まれ、検証者が訂正信号ではなく文脈汚染の源になる。だから検証を生成より意図的に狭くする。検証者が受け取るのは特定の主張・その裏付け・適用制約だけで、仕事は反例探索、独立ソース種別での三角測量、名前や日付や数値の照合、形式適合のいずれか。非対称性はモデルサイズではなく課題側にある、と論文は書きます。

この先にあるもの

§

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参考文献

  1. B. An, B. Li, B. Wang, B. Zhang et al.. (2026-08-24) Apodex 1.1: Scaling Agentic Intelligence for Complex Work. arXiv:2608.23283論文ページ·PDF

本記事は上記論文の本文にもとづいて執筆しています。数値・主張は原典を優先してください。

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