対称性と等変性 — 群論がネットワーク設計に効く
「ずらしても猫は猫」をネットワークの構造そのものに焼き込む考え方を、群の4条件から等変性の定義式、CNNのパラメータ共有、AlphaFoldのフレームまで一本につなぎます。対称性を課すのが逆効果になる場面も含めて。
Group Equivariant Convolutional Networks
一次資料 — この記事の根拠
この解説の公開 2026-08-27
Group Equivariant Convolutional NetworksarXiv:1602.07576論文ページ·PDFTensor Field Networks: Rotation- and Translation-Equivariant Neural Networks for 3D Point CloudsarXiv:1802.08219論文ページ·PDF
Geometric Deep Learning: Grids"arXiv:2104.13478論文ページ·PDF
GroupsGroups
GraphsGraphs
GeodesicsGeodesics
https://arxiv.org/abs/2104.13478"and Gauges
逆さまにしても猫は猫
猫の写真を10ピクセル右にずらしても、写っているのは猫です。90度傾けても猫です。人間には当たり前ですが、ニューラルネットにとっては当たり前ではありません。画素をずらせば入力の数値の並びはまるごと別物になり、素朴な全結合層から見れば「まったく無関係な入力」です。「これは同じものだ」という知識は、どこかから与えてやる必要があります。
与え方は2つです。1つはデータで教える方法——ずらした写真・回した写真を大量に見せて、経験的に同じ答えを出させる(データ拡張)。もう1つは構造に焼き込む方法——「入力をずらしても、答えが同じようにずれるだけ」という性質を、層の形として最初から持たせてしまう。
後者を扱う言葉が群論であり、中心にある2語が不変性(invariance)と等変性(equivariance)です。CNNが画像に強い理由も、Transformerに位置符号化が要る理由も、AlphaFoldが原子座標を扱えた理由も、この一枚の地図の上に並びます。
「変わらない」と「一緒に動く」は別物
この2語をまず区別します。集合写真で考えるのが早い。
- 不変: 全員が一歩右にずれても、写っている人数は変わらない。
- 等変: 全員が一歩右にずれると、各人の顔の位置も一歩ぶん右にずれる。
人数が不変量、顔の位置が等変量です。等変は「変わらない」ではなく「予測できる形で一緒に変わる」。この違いが設計上は決定的で、途中の層は等変であるべきで、不変にすべきなのはたいてい最後だけです。
途中で不変にすると情報が消えるからです。1層目で「位置によらない特徴」に潰してしまえば、目と耳の位置関係はもう戻せません。等変なら位置の情報は保たれたまま流れ、必要になった最後の一手で潰せます。等変な層を積み、最後に不変化する——幾何を意識したネットワークは、ほぼこの一つの型でできています。
いちばん身近な不変量は内積です。2本のベクトルを両方まとめて同じ角度だけ回しても、内積は変わりません。個々の成分は全部変わるのに、組み合わせた量だけが生き残る。
群 — 「操作の集まり」に名前をつける
「ずらす」「回す」「並べ替える」に共通する構造を抜き出したものが群(group)です。定義は4行しかありません。操作の集合 が群であるとは、
- 2つの操作を続けて行った結果も の中にある(閉じている)
- 3つ以上つなぐとき、まとめ方を変えても結果は同じ(結合法則)
- 「何もしない」という操作 がある(単位元)
- どの操作にも「元に戻す」操作がある(逆元)
回転で確かめると腑に落ちます。90度回してから180度回せば270度回転(閉じている)、0度回転が「何もしない」(単位元)、90度に対して270度が「元に戻す」(逆元)。だから90度刻みの4つの回転はきちんと群を作り、 と呼ばれます。
現場に出てくる群は、だいたい決まっています。
| 群 | 中身 | どこで効くか |
|---|---|---|
| 並進群 | 平面・直線上のずらし | 画像・音声(CNN) |
| / | 平面の回転 | 病理・衛星・天文画像 |
| / | 3D回転/回転+並進 | 分子・点群・タンパク質 |
| 置換群 | 要素の並べ替え | 集合・グラフ(GNN・Transformer) |
| +鏡映 | 物理量(ただし後述の罠あり) |
群そのものは抽象的な操作の集まりですが、データに作用させるには行列が要ります。要素 に行列 を割り当て、 を満たすようにしたものを表現(representation)と呼びます。以降「群を作用させる」と言ったら、この行列を掛けることだと思ってください。
等変性を式で書く
写像 (ネットワーク全体でも、その1層でもよい)が群 に対して等変であるとは、
は入力、 は入力側で操作 を行う行列、 は出力側で同じ を行う行列です。つまり「先に動かしてから通す」と「通してから動かす」が一致する、と言っているだけ。順番を入れ替えてよい、それだけです。
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