JA EN
体系線形代数
·★ 会員·論文·12分で読めます

対称性と等変性 — 群論がネットワーク設計に効く

「ずらしても猫は猫」をネットワークの構造そのものに焼き込む考え方を、群の4条件から等変性の定義式、CNNのパラメータ共有、AlphaFoldのフレームまで一本につなぎます。対称性を課すのが逆効果になる場面も含めて。

対象textタスクmath

Group Equivariant Convolutional Networks

一次資料 — この記事の根拠

この解説の公開 2026-08-27

Group Equivariant Convolutional NetworksarXiv:1602.07576論文ページ·PDF
Tensor Field Networks: Rotation- and Translation-Equivariant Neural Networks for 3D Point CloudsarXiv:1802.08219論文ページ·PDF
Geometric Deep Learning: Grids"arXiv:2104.13478論文ページ·PDF
GroupsGroups
GraphsGraphs
GeodesicsGeodesics
https://arxiv.org/abs/2104.13478"and Gauges

逆さまにしても猫は猫

猫の写真を10ピクセル右にずらしても、写っているのは猫です。90度傾けても猫です。人間には当たり前ですが、ニューラルネットにとっては当たり前ではありません。画素をずらせば入力の数値の並びはまるごと別物になり、素朴な全結合層から見れば「まったく無関係な入力」です。「これは同じものだ」という知識は、どこかから与えてやる必要があります。

与え方は2つです。1つはデータで教える方法——ずらした写真・回した写真を大量に見せて、経験的に同じ答えを出させる(データ拡張)。もう1つは構造に焼き込む方法——「入力をずらしても、答えが同じようにずれるだけ」という性質を、層の形として最初から持たせてしまう。

後者を扱う言葉が群論であり、中心にある2語が不変性(invariance)等変性(equivariance)です。CNNが画像に強い理由も、Transformerに位置符号化が要る理由も、AlphaFoldが原子座標を扱えた理由も、この一枚の地図の上に並びます。

「変わらない」と「一緒に動く」は別物

この2語をまず区別します。集合写真で考えるのが早い。

人数が不変量、顔の位置が等変量です。等変は「変わらない」ではなく「予測できる形で一緒に変わる」。この違いが設計上は決定的で、途中の層は等変であるべきで、不変にすべきなのはたいてい最後だけです。

途中で不変にすると情報が消えるからです。1層目で「位置によらない特徴」に潰してしまえば、目と耳の位置関係はもう戻せません。等変なら位置の情報は保たれたまま流れ、必要になった最後の一手で潰せます。等変な層を積み、最後に不変化する——幾何を意識したネットワークは、ほぼこの一つの型でできています。

いちばん身近な不変量は内積です。2本のベクトルを両方まとめて同じ角度だけ回しても、内積は変わりません。個々の成分は全部変わるのに、組み合わせた量だけが生き残る。

FIG 12本のベクトルを別々に回すと内積は動く。しかし「両方を同じだけ回す」操作=回転群の作用に対しては、成分がすべて変わるのに内積だけが変わらない。これが不変量です

群 — 「操作の集まり」に名前をつける

「ずらす」「回す」「並べ替える」に共通する構造を抜き出したものが群(group)です。定義は4行しかありません。操作の集合 GG が群であるとは、

  1. 2つの操作を続けて行った結果も GG の中にある(閉じている)
  2. 3つ以上つなぐとき、まとめ方を変えても結果は同じ(結合法則)
  3. 「何もしない」という操作 ee がある(単位元)
  4. どの操作にも「元に戻す」操作がある(逆元)

回転で確かめると腑に落ちます。90度回してから180度回せば270度回転(閉じている)、0度回転が「何もしない」(単位元)、90度に対して270度が「元に戻す」(逆元)。だから90度刻みの4つの回転はきちんと群を作り、C4C_4 と呼ばれます。

現場に出てくる群は、だいたい決まっています。

中身 どこで効くか
並進群 平面・直線上のずらし 画像・音声(CNN)
CNC_N / SO(2)SO(2) 平面の回転 病理・衛星・天文画像
SO(3)SO(3) / SE(3)SE(3) 3D回転/回転+並進 分子・点群・タンパク質
置換群 SnS_n 要素の並べ替え 集合・グラフ(GNN・Transformer)
E(3)E(3) SE(3)SE(3) +鏡映 物理量(ただし後述の罠あり)

群そのものは抽象的な操作の集まりですが、データに作用させるには行列が要ります。要素 gg に行列 ρ(g)\rho(g) を割り当て、ρ(g)ρ(h)=ρ(gh)\rho(g)\rho(h) = \rho(gh) を満たすようにしたものを表現(representation)と呼びます。以降「群を作用させる」と言ったら、この行列を掛けることだと思ってください。

等変性を式で書く

写像 ff(ネットワーク全体でも、その1層でもよい)が群 GG に対して等変であるとは、

f(ρin(g)x)  =  ρout(g)f(x)(gG)f\big(\rho_{\text{in}}(g)\,x\big) \;=\; \rho_{\text{out}}(g)\,f(x) \qquad (\forall g \in G)
(1)

xx は入力、ρin(g)\rho_{\text{in}}(g) は入力側で操作 gg を行う行列、ρout(g)\rho_{\text{out}}(g) は出力側で同じ gg を行う行列です。つまり「先に動かしてから通す」と「通してから動かす」が一致する、と言っているだけ。順番を入れ替えてよい、それだけです。

が恒等行列(何もしない)である特別な場合が不変です。

この先にあるもの

§

ここから先は会員限定です

解説記事371本・教科書26章・学生モード48単元・論文精読6本が、月額¥490ですべて読み放題になります。新しい解説は毎日3本ずつ増えます。いつでも解約でき、解約後も期間の終わりまで読めます。

会員の方はログインすると続きが表示されます

参考文献

  1. Group Equivariant Convolutional Networks. arXiv:1602.07576論文ページ·PDF
  2. Tensor Field Networks: Rotation- and Translation-Equivariant Neural Networks for 3D Point Clouds. arXiv:1802.08219論文ページ·PDF
  3. Geometric Deep Learning: Grids. "arXiv:2104.13478論文ページ·PDF
  4. Groups. Groups
  5. Graphs. Graphs
  6. Geodesics. Geodesics
  7. https://arxiv.org/abs/2104.13478". and Gauges

本記事は上記論文の本文にもとづいて執筆しています。数値・主張は原典を優先してください。

コメント

コメントにはログインが必要です